ホルモン治療は5年を超えていつまで行うべきか |
術後ホルモン治療5年後にアナストロゾール2年vs5年を比較したABCSG試験の結果がNEJMに発表されました。3484名が1:1で割りつけられています。解析は投与開始2年時点でのランドマーク解析が行われているため、当初二年間に再発あるいは服薬中止した症例(ANA2年;それぞれ67例と62例、ANA5年;それぞれ68例と65例)が解析から除かれています。これだったら、2年服用終了時にランダム化すればいいのにと思いますが、ABCSGは以前から同様のタイミングでランダム化していたような記憶もあります。 10年フォローアップして再発あるいは死亡はいずれの群にも20%おこり、差は認めなかったという報告でした。ただし、骨折リスクはANA5年群で1.35倍です。再発リスクが低い人は、そもそも2年追加する必要があるのかもわかりませんが、アロマターゼ阻害薬を漫然と投与すべきではなさそうです。 ただ、この試験には、nが4個以上の人はあまり含まれていないようなので、ハイリスク群で5年投与するかどうかは個別の判断になりそうです。
disease progression ordeath occurred in 335 women in each treatment group in the primary-analysis setat 8 years (hazard ratio, 0.99; 95% confidence interval [CI], 0.85 to 1.15; P =0.90). No between-group differences occurred in most secondary end points, andsubgroup analyses did not indicate differences in any particular subgroup. Therisk of clinical bone fracture was higher in the 5-year group than in the2-year group (hazard ratio, 1.35; 95% CI, 1.00 to 1.84). |
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by aiharatomohiko
| 2021-08-25 15:23
| 論文
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RxPonder試験 リンパ節転移陽性へのオンコタイプの利用 |
腋窩リンパ節転移陽性のER陽性、HER2陰性乳がんのうち85%はオンコタイプでRS0-25であるという。そのうち、リンパ節転移が1-3個の人を対象として、ホルモン治療 VS ホルモン治療+ケモを比較したRxPonder試験の結果が、SABCS2020で報告されている。
論文化がまだなのでfigureは上げられないが、結果は以下の通り。
・閉経後の患者さんでは、化学療法の上乗せ効果はなかったので、化学療法を省略する目的でオンコタイプは有用。
・閉経前の患者さんでは、化学療法の上乗せ効果を認めた。つまり、リンパ節転移陽性の場合、閉経前の患者さんではRSの値によらず化学療法の上乗せ効果がある(IDFSを40-50%減少させる)ことから、この対象にRSは化学療法を省略する目的での、効果予測因子としての意義がないという結果だった(標準治療が化学療法ありのため)。
ただ、5年IDFSがホルモン治療で89.0%、化学療法上乗せで94.2%と絶対値で見て5%の違いだったため、その程度の違いならば化学療法は受けたくないという人もいるだろうから、この対象にオンコタイプの意義が全く無いとは言えないかもしれない。すなわち、オンコタイプは予後因子として利用する意義はあるのではないか。(ちなみに化学療法による遠隔転移の改善は5年で2.9%。)
というのは、GnRHアナログを追加することで、2%ほどIDFSの改善が得られるかもしれない。また、GnRHとアロマターゼ阻害薬の併用では、3.5%ほどの改善が期待でき、化学療法との差がかなり小さくなるが、さて、患者さんへの説明と治療法の選択が難しくなりそうだ。 |
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by aiharatomohiko
| 2021-05-06 00:29
| 学会
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しぼむアテゾリズマブへの期待 IMPASSION130と131 |
良くない情報は目立たないように報告されるものですね。Positiveなら学会発表と同時にNEJMに報告されるのに。
昨年のESMOでアテゾリズマブの有用性を検証するIMPASSION130試験のOSの最終解析結果がひっそりと報告されていました。
以下がその結果です。真の評価項目である全生存期間は統計学的には有意に改善はされなかった、ということが骨子です。中間解析結果を見るとOSでも何とか有意になりそうだったのですが、ダメでした。
Final OS analysis A + nP (n = 451) P + nP (n =451) ITT population Events, n (%) 322 (71) 344 (76) Median OS (95% CI), mo 21.0 (19.0, 23.4) 18.7 (16.9, 20.8) Stratified OS HRa (95%CI); log-rank P 0.87 (0.75, 1.02);0.0770b 3-year OS (95% CI), % 28 (24, 32) 25 (21, 29) PD-L1+ population c (n = 185) (n= 184) Events, n (%) 120 (65) 139 (76) Median OS (95% CI), mo 25.4 (19.6, 30.7) 17.9 (13.6, 20.3) Stratified OS HR (95% CI) 0.67 (0.53, 0.86)d 3-year OS (95% CI), % 36 (29, 43) 22 (16, 28)
ITTで有意でなければ、PDL1陽性では検定が出来ない(ITTでαを消費してしまったため)デザインでしたので、いくらPDL1陽性でデータが良いように見えても、それはまぼろしかもしれません。
ESMOの発表では、苦し紛れに“clinicallymeaningful OS benefit was observed in PD-L1+ pts”って書いていますけど、これは発表者バイアスなので、われわれ臨床家はまともに受け取ってはいけません。
パクリタキセルを使用したIMPASSION131試験では、アテゾリズマブはPFSを改善しなかったばかりか、OSでは悪い傾向にあるということで、、、
まとめると、nabPTXとの併用でアテゾリズマブはPFSを改善するが、OSの改善は見られなかった。PTXとの併用では、アテゾリズマブはPFSを改善しなかったばかりか、OSでは悪い傾向にある。なんじゃこりゃ。中間解析での期待は幻だったのか。。。
副作用のプロファイルを考えると、真のエンドポイントを改善しないのならば、ただただ使いにくくて患者さんに対するベネフィットは??という印象です。
P3の結果はまだ論文化されていないものの、現時点でのデータをみると、今後はSacituzumab Govitecanなどの抗TROP2抗体がtriple negativeの治療の中心になるでしょう。心から早く上市して欲しいと思います。
追記:ほかのPD1/PDL1抗体に関しては、OSの結果はまだなので、この系統の薬剤全てが今一と決まったわけではありません。 |
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by aiharatomohiko
| 2021-03-06 22:18
| 論文
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アベマサイクリブで再発抑制 MONARCH-E |
ホルモン受容体陽性、HER2陰性の術後再発高リスク乳がんに対して、ホルモン治療±アベマサイクリブのRCTの結果が論文発表されました(J Clin Oncol 38:3987-3998)。なぜNEJMでないのかはよくわかりません。
5,637名の患者さんが登録され、323IDFSが起こった時点での解析です。組み入れ基準は Patients with four or morepositive nodes, or one to three nodes and either tumor size ≥ 5 cm, histologic grade 3, or central Ki-67 ≥ 20%と記載されています。
治療効果は、 ( hazard ratio, 0.75; 95% CI, 0.60to 0.93 P = .01), 2-year IDFS rates of 92.2% versus88.7%と記載されています。
観察期間が短いので何とも言えないのですが、統計学的には有意に改善されていますので、再発高リスクには標準と言って良いと思います。
ただし、治療効果はハザード比0.75なので、そんなに大きな効果ではありません。
日常臨床で誰に使うか、という事を考えると、副作用とのバランスで、あまり高齢ではなくリスクがそれなりに高い方、具体的には組み入れ基準の“ four or more positive nodes, or one to three nodes and either tumor size ≥ 5 cm“に該当する方でしょうか。
より長期のフォローアップが報告されれば、もうちょっとピントが合ってくると思いますので、よく考えてみます。 アベマサイクリブはよいフリカケ薬という印象です。 |
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by aiharatomohiko
| 2020-11-26 22:37
| 論文
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n0高リスクに対する術後ハーセプチン投与期間その5 |
・n0高リスクHER2陽性がんの術後治療におけるtrastuzumabの6月投与
いままで紹介してきた試験にはn0とn+が含まれているため、n0高リスクHER2陽性がんに対して化学療法とtrastuzumabの1年投与を行った場合の再発リスクを見込み、PHARE/PERSEPHONE試験の考察から得られた6月投与で1年投与より7-8%程度再発が多くなるという推定を援用することで、n0高リスクHER2陽性がんの術後治療におけるtrastuzumabの6月投与の有効性を検討してみる。
これには、pT3㎝以下、pN0のHER2陽性早期乳がんに対して化学療法(パクリタキセル毎週投与12回)と トラスツズマブの1年投与を行ったAPT試験(10)のアップデートされた結果が有用である。
報告された7年DFSは全体で93.3% (95%信頼区間 90.4-96.2%)、 ホルモン受容体陽性では 94.6% (95%信頼区間 91.8-97.5%) ホルモン受容体陰性は 90.7% (95%信頼区間 84.6-97.2%)であった。PHARE/PERSEPHONE試験の結果から、trastuzumabの1年投与に対する6月投与のハザード比の推定値1.08を援用すると、概算される7年DFSの絶対値の差は、ホルモン受容体陽性でおよそ0.5%、ホルモン受容体陰性でもおよそ 0.75%ほどであり、臨床的に無視できるほどの差でしかない。
その一方で、心血管の毒性が1/2-1/3に減少する。心血管の毒性に対する医療費はもちろん、半年間のtrastuzumab投与にかかる医療費を考えると、医療経済的にも6月投与はメリットが大きい。
結論として、n0高リスクHER2陽性がんの術後治療で、trastuzumabの1年間の投与は必須とは言えない。なぜならば、投与期間を6月に短縮することで高くなる再発リスクの絶対値は1%未満と推定され、臨床的に無視できるほど小さいうえに、抗HER2療法に伴う心血管系の毒性や通院を含めた医療コストが半分以下に減少するからである。特にホルモン受容体陽性では1年投与が必要なケースはかなり限定されるであろう。 |
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by aiharatomohiko
| 2020-05-26 21:24
| 医療
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