術前化学療法は患者さんの役に立っているのか?その4 |
術前化学療法の問題点として、術前組織診の限られた標本でしか 原発巣の病理学的な検討を行えないこと、もともとのリンパ節転移の 状況が正確には把握できないこと、腫瘍が縮小し非触知となった場合には 乳腺部分切除の際に切除範囲を決定しにくいこと、などが挙げられます。 特に、腋窩リンパ節転移の状況(=転移再発のリスク判断)が分からずに、 レジメを決めなければならないのが、第一の問題と考えます。 一時は術前化学療法といえば、ステージに関わらずアンスラサイクリン +タキサンを使用したり、標準治療とかけ離れたレジメが使用されることが ありました。私も当時はそれが妥当と思っていましたので、以前はその様な 臨床試験に参加したことがあります。 しかし、術後に行う化学療法を術前に行っても生存率は同じ、という所から 始まった治療なのに、術後治療として使用しないようなレジメが術前化学療法 に使用されることは本来ありえないはず、と現在では考えるに至りました。 具体的に言えば、腋窩リンパ節転移が無い場合には、タキサンの追加効果 が絶対値で見ると低いため術後療法では頻用しないのに、術前化学療法だと 腋窩リンパ節転移の状況に関係なく使用されるのはなぜか? 過剰治療なのではないか、ということです。 この点をよく理解している施設では、いち早くセンチネルリンパ節生検を行って から治療方針を決定するようになりました。 腋窩リンパ節転移がある場合には、アンスラサイクリン+タキサンを術前に 行っても良いという判断がこれでできる事になります。 手間を惜しまなければ、大変スマートなやり方だと思います。 もう一つは、乳房切除後の放射線治療の適応についてです。 乳房切除した場合でも、リンパ節転移が4個以上の場合には術後放射線 治療を行うことが標準となっています。 しかし、術前化学療法により手術時に腋窩リンパ節転移の個数が減少する 可能性があるので、もともとの転移個数がわからなくなり、適切に放射線 治療の適応を決定することが困難になるのではないかという懸念も、 問題点の一つであると考えます。 |
by aiharatomohiko
| 2008-10-15 23:20
| 医療
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