術後療法でのアベマシクリブ vs S1 |
ER陽性HER2陰性乳がんで再発リスクの高い人に対して、術後療法でアベマシクリブあるいはS1により再発リスクを減らせます。いずれを使用するべきでしょうか。 まず、効果において、アベマシクリブとS1はいずれが優れているのでしょうか。両者を直接に比較したランダム化比較試験がないので、厳密にはわかりません。次善の策として、内分泌療法単独と比較したデータでザックリと考察してみましょう。 アベマシクリブ(2年投与)は IDFSのハザード比が0.664((95%信頼区間:0.578-0.762)、観察期間中央値42.0カ月) 、4年IDFSは、内分泌療法群が79.4%、アベマシクリブ群が85.8%、でした。 OSのハザード比は0.929(95%信頼区間:0.748-1.153、内分泌療法群で173、アベマシクリブ群で157)と有意差なし(monarchE試験)。 S1(1年投与)はiDFSのハザード比0.63((95%信頼区間:0.49-0.81)、p<0.001、観察期間中央値51カ月、イベント数は内分泌療法群で155、S-1群で101)、5年iDFSは、内分泌療法群が81.6%、S-1群が86.9%、でした。この試験は主要評価項目が中間解析で有意に良好だったため早期終了しており、OSが改善されるかどうかは不明です(POTENT試験)。 なお、有効中止というのは難しい問題をはらみますが、正式な解析はこの一回のみですので、このデータで考察します。 まとめると、アベマシクリブもS1も再発を30%以上減らすと見込まれるが、OSの改善は明らかでない、有効性においてほぼ同等と結論付けられます。
ついで副作用について考えましょう。アベマシクリブは下痢を含めた消化器毒性、血液毒性、重篤なものでは肺障害が問題になります。S1は消化器毒性、血液毒性、重篤なものでは肝障害、腎障害が問題になります。 治療期間は、アベマシクリブが2年、S1は1年です。治療費は言うまでもなくアベマシクリブが天文学的に高いです。
それでは、結論です。 アベマシクリブとS1は再発抑制効果がほぼ同等でいずれもOSの改善効果は明らかではありません。個人的な印象では、副作用マネージメントはアベマシクリブの方がS1よりも難しい場合が多い。治療期間はS1が短く、医療費も安い。 ということから、直接比較するまでもなく、個人的にS1に軍配を上げます。なお、治療効果の差がほとんどないと見込まれることから、直接比較には万単位の患者さんの協力と何十億(で済むかな、、、)という巨額の費用をかけたランダム化比較試験が必要になると思われますので、今あるデータで考えるのが現実的かなと思います。 |
by aiharatomohiko
| 2023-06-25 09:19
| 医療
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