無増悪期間を一次評価項目とする問題点 |
前回の続きです。 この試験をしてよかったことは、転移乳がんに対して無増悪期間を 一次評価項目とする問題点が改めて浮き彫りになったことでしょう。 無増悪期間はあくまで治療の主たる目的である全生存期間の代替指標 に過ぎません。無増悪期間が改善される→全生存期間が改善されるという 図式が成り立つという前提の上、有用な治療を早く評価して世に出すために 無増悪期間が一次評価項目として使用することが許容されるのです。 試験治療が一次評価項目で統計学的な有意差をもって勝ちさえすれば、 それが無条件に新しい標準治療になると考えるのはあまりに楽観的です。 無増悪期間が改善されても全生存期間が改善されないのなら、新薬により QOLが改善される場合や新薬の副作用が少ないもしくはコストが安いなど という場合を除いて、新規薬剤を全症例に使うのは推奨出来ません。 コストが高かったり副作用が強いのであればなおさらです。 全生存期間に改善が見られないが無増悪期間が長いだけの治療法は、 ただ単に薬が効いている(使っている)期間が長いということであり、治療者の 自己満足に過ぎない恐れがあります。 製薬会社は喜ぶでしょうけど、患者さんが本当に喜ぶでしょうか? 単に奏効率が高いという治療法(例:化学療法の同時併用療法)も、 似たようなところがあります。 しかしながら、製薬会社は新薬の有効性を速く証明して早く市販したい、 それによって投資を早く回収したいという思惑があるため(パテント期間の 問題にも起因する)、企業スポンサードの臨床試験では、より早期に決着が つく代替エンドポイントで勝負したがります。 その結果として、イベント数が不足して真の治療効果を検討することが 出来なくなってしまい、使った方がいいのかどうかわからなくなってしまう のは、皮肉としか言いようがありません。 もう一つの問題点として、中間解析結果で一次評価項目において新規治療薬 の有効性が証明された場合には、プラセボ群にも新薬の使用を許可する (クロスオーバー)ことが倫理的とされる傾向にあります。 そのため、クロスオーバーが効いているために全生存期間に差が出ていない のか、もともと全生存期間に差が無いのかが分かりにくくなってしまいます。 アバスチンの試験でもそうした事が語られているようです。 ともあれ、保守的過ぎると言われるかもしれませんが、今後は基本に 立ち返り、それが有望な治療法であればあるほど、全生存期間を 主要なエンドポイントとして臨床試験をすることが望まれます。 |
by aiharatomohiko
| 2010-04-29 23:51
| 学会
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