ダトロウェイとエンハーツ その3 |
TROPION-Breast01試験 内分泌療法に病勢進行となり化学療法が適応となった、HR陽性HER2陰性の手術不能・転移乳癌患者を、Dato-DXd(n=365)または医師選択化学療法群(n=367)に1:1で無作為に割り付けた。主要評価項目は、盲検下独立中央審査によるPFSとOSの2つであった。 Dato-DXdはPFSを有意に延長させた(ハザード比、0.63 [95% CI、0.52~0.76]、P < 0.0001)。この解析ではデータが成熟しておらず、OSはDato-DXdに有利な傾向が観察された(ハザード比, 0.84 [95% CI, 0.62 to 1.14])と報告されたものの、最終解析では統計学的に有意でなかった(詳細データ未公表)ことがプレスリリースされた。
まとめ;DESTINY-Breast06試験とTROPION-Breast01試験の対象患者は似ており、治療効果も近似しています。T-DXd;PFSハザード比:0.62、95%CI:0.51~0.74、p<0.001)、OSハザード比:0.83、95% CI:0.66~1.05、 P=0.1181;追加解析が予定) vs Dato-DXd;(ハザード比、0.63 [95% CI、0.52~0.76]、P < 0.0001)。OS;ハザード比, 0.84 [95% CI, 0.62 to 1.14] NS)
ただ、いずれも現時点では統計学的に有意なOSの改善は証明されていません。そのため、いずれもホルモン治療後の一次治療から積極的に使用すべきといえるデータはありません。特に、最終データが開示されていないですが(よくないデータは開示が遅い、、、)、OSが有意に改善されなかったDato-DXdは、積極的に使用する対象にならないと個人的には感じています。 DESTINY-Breast04試験で、ER陽性HER2陰性を対象にしたOSが統計学的有意に改善されていますので、データを素直に読めば、現時点ではER陽性HER2陰性乳癌には、Dato-DXdではなく、T-Dxdを化学療法2nd line以降に使用するのが良いと考えます。 |
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by aiharatomohiko
| 2025-01-15 21:59
| 医療
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ダトロウェイとエンハーツ その2 |
蛇足ですが、HER2陽性を対象にした試験の結果は以下の通りで、
・DESTINY-Breast02試験(ESMO2024 update): T-DM1治療歴のあるHER2陽性進行転移乳癌が対象で、医師選択化学療法群(トラスツズマブ+カペシタビンまたはラパチニブ+カペシタビン)に対する、T-DXd群のPFSのハザード比: 0.30 (95% CI: 0.24~0.37)、T-DXd群のOSのハザード比: 0.69 (95% CI: 0.55~0.88)。
・DESTINY-Breast03試験: トラスツズマブおよびタキサン系抗癌剤の治療歴があるHER2陽性進行転移乳癌が対象で、TDM1に対して、 PFS中央値のハザード比 0·33, [95% CI 0·26–0·43]. OS中央値は、T-DXd群では72例(28%)で未到達(95%信頼区間40-5ヵ月、推定不能)、TDM1群では97例(37%)で未到達(34-0ヵ月、推定不能)(ハザード比 0-64,[95%信頼区間0-47-0-87]、p=0-0037)。
まとめ;標準治療に対するエンハーツの治療効果は、HR陽性HER2陰性よりHER2陽性で高いことが分かります。 |
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by aiharatomohiko
| 2025-01-14 21:58
| 医療
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ダトロウェイとエンハーツ その1 |
TROP2を標的としたダトロウェイ(ダトポタマブ デルクステカ;Dato-DXd)が発売になるので、標的タンパクは異なるものの、使用されている抗癌剤が同じである、HER2を標的としたエンハーツ(T-Dxd)のデータと比較をしてみましょう。
まず、T-DXdのデータです。 ・DESTINY-Breast04 試験: HER2低発現( [IHC スコア] 1+,または IHC スコア 2+かつISH陰性)の進行・転移乳癌に対して、 1~2 レジメンの化学療法を行った患者を、 T-DXd群(373例)または医師選択化学療法群(184例;カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれか)に 2:1 の割合で無作為に割り付けた。(N=557例、うち494 例(88.7%)がHR陽性,63 例(11.3%)がHR陰性) HR陽性では,PFSの中央値はT-DXd群で 10.1 ヵ月,医師選択化学療法群で 5.4 ヵ月であり(ハザード比 0.51,P<0.001),OSはそれぞれ 23.9 ヵ月,17.5 ヵ月であった(ハザード比 0.64,P=0.003).すべての患者では,PFSの中央値はT-DXd群で 9.9 ヵ月,医師選択化学療法群で 5.1 ヵ月であり(ハザード比 0.50,P<0.001),OS中央値は、それぞれ 23.4 ヵ月,16.8 ヵ月であった(ハザード比 0.64,P=0.001). 32か月のアップデートの結果は、OS中央値は、HR陽性でT-DXd群23.9ヵ月vs. 医師選択化学療法群17.6ヵ月でハザード比0.69(95%CI:0.55~0.87)、すべての患者で22.9ヵ月vs.16.8ヵ月でハザード比0.69(95%CI:0.55~0.86)であった。
・DESTINY-Breast06試験;HR陽性かつHER2低発現( [IHC スコア]1+または2+、ISH陰性)またはHER2超低発現(膜染色を伴うIHC 0(>0および<1+))の進行・転移乳癌に対して、 2ライン以上の内分泌療法でPD、術後内分泌療法開始から24ヵ月以内にPS、あるいは内分泌療法とCDK4/6阻害薬による1次治療の開始から6ヵ月以内にPSとなった、かつ転移乳癌に対する化学療法歴がない患者を、 T-DXd群(436例)または医師選択化学療法群(430例;カペシタビンが60%、nab-パクリタキセルが24%、パクリタキセルが16%)に1対1で無作為割付。(N=866例)
PFS中央値はT-DXd群13.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.4~15.2)、化学療法群8.1ヵ月(7.0~9.0)であり、T-DXd群が有意に延長した(ハザード比:0.62、95%CI:0.51~0.74、p<0.001)。 OSは一回目の中間解析では統計学的有意水準まで到達しておらず(ハザード比:0.83、95% CI:0.66~1.05、 P=0.1181;追跡期間中央値18.6ヵ月)、事前に設定された追加解析が予定されている。
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by aiharatomohiko
| 2025-01-13 21:57
| 医療
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術後療法としてのパージェタの追加効果 |
術後療法としてのパージェタの追加効果について、予定されたOSの三回目の検定結果が追跡期間の中央値8.4年時点でおこなわれ、その結果が論文として発表された(Journal ofClinical Oncology Volume 42, Number 31)。
・8年OSは、ペルツズマブ群で92.7%、プラセボ群で92.0%(ハザード比、0.83[95%CI、0.68~1.02];P = 0.078)と有意水準には届かなかった。
・リンパ節転移陽性コホートでは0.80[95%CI 0.63~1.00]と良い傾向にあり、8年iDFSは、4.9%の改善効果を認めた(86.1% vs 81.2%;HR、0.72[95%CI、0.60~0.87])。一方で、リンパ節転移陰性コホートではOSは0.99[95%CI 0.64~1.55]と追加効果は乏しかった。iDFSでも同様の結果。
・iDFSの改善はホルモン受容体陽性と陰性で変わらず認められた。
少なくともpN0でパージェタの追加効果は乏しいようです。 HER2陽性は術前化学療法がなされるケースが多く、cN0の方がpN0かどうかを手術前に知ることは不可能です。pN0の1-2割がpN陽性とすれば、ほとんどのケースでパージェタの投与は過剰医療となります。医療費の増加は膨大ですが、重篤な副作用が増えるわけではないこと、pCRが得られなかったときにTDM1への変更により生存率の改善が期待できる、というところがポイントになるかと思います。 |
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by aiharatomohiko
| 2024-11-04 10:23
| 医療
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IMpassion132試験 アテゾリズマブはしんどいですね |
IMpassion132試験 化学療法もしくは手術後12ヶ月以内に早期再発したPD-L1陽性のTNBCを対象として、アテゾリズマブ1200mg+主治医選択の化学療法 vs 主治医選択の化学療法を、主要評価項目として全生存期間を比較した。結果は、全生存期間の中央値はアテゾリズマブ+化学療法群12.1ヶ月 vs 化学療法群11.1ヶ月(ハザード比:0.93,95%信頼区間:0.73–1.20,P=0.59)と統計学的に有意な改善はなかった。 アテゾリズマブは、乳がんにおいてはどの試験でもことごとく真のエンドポイントにおいて統計学に有意な改善を認めていない一方、ペンブロリズマブは真のエンドポイントにおいて統計学的に有意な改善を転移性乳がんでも早期乳がんでも認めている、というのが現状です。 現時点では、アテゾリズマブを使う理由を見つけることが、個人的には大変難しいと言わざるを得ない状況です。 |
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by aiharatomohiko
| 2024-06-02 21:52
| 学会
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